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どうもこんにちわ。ラッパー・上鈴木伯周、35歳です。
大学の同級生であり、
『SR サイタマノラッパー』の監督であり、
「僕らのモテるための映画聖典」の主催者であり、
P.O.Pの「Watch me」のミュージック・ビデオを監督してくれた、
入江悠の最新作品『日々ロック』が公開されました。
もちろん初日に観てきました。
そりゃもー熱く深く語らずにはいられません。
今週は読みにくいですよ、多分。でそして長いです。すみません。
まずはどんな映画なのか、
あらすじをラップで説明しましょう。
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元いじめられっこ 日々沼は愛すロックンロール
上京してもうだつは上がらず 毎日もう苦労する
そこに現れる ロック好きの トップ・アイドル
不思議な運命が転がる ロックが二人を繋いどる
変えるのは世界でなく 君と僕の小さいワールド
そこだけでいい だから僕は今日もここで歌うぞ
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はい、勘の良い方なら既にお分かりかと思いますが、
『日々ロック』を
ヒップ・ホップ的に言うならばこの曲…!
スチャダラパー 「今夜はブギー・バック」
ということになりますね!大ネタきましたね。
(ぜひ、この曲を聴きながらこのあとを読んで下さい)
どいうことか、説明しましょう。
===== (中略) =====
■入江悠の遊び心 バランス感覚
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『日々ロック』のストーリーはとてもシンプルです。
乱暴に言えば、よくある話、とも思えます。
さえない貧乏ミュージシャンが上京し、
とあるきっかけで熱い思いと使命を手に入れ、
仲間の協力を得て、それらを吐き出し、ヒロインに届く。
シナリオの段階で一定の「ベタな青春物語」が保証されてるので、
それぞれのシークエンスを、それっぽく撮影すれば、
それなりのオチがついて、たぶん、
そこそこの客を涙させることができるでしょう。
例えば、宇田川咲のライブシーンがテレビ局のスタジオ収録だって、
クライマックスがライブハウスで、咲が点滴を持ってフラフラと現れても、
主人公があんなにどもらず、もう少しかっこいいままの野村周平でも、
「青春音楽映画」としては、普通に成立すると思います。
ただ、本作はそうはなっていなかった。
それは冒頭の大量の血とゲロによって早々に表明されていました。
「入江、チャレンジします!遊びます!」と。
その後も、遊び心がある演出や小ネタが随所に散りばめられますが、
特に主人公・日々沼演じる野村周平のキャラクターは、
本当にチャレンジングだと思います。イケメン俳優に、
ここまでの演技とキャラクターを過剰に付けることが、
最近の邦画であったでしょうか。作品全体を壊すかもしれないのに。
作品が壊れるほど大暴れする一方通行の革命は、意外と簡単。
壊れない程度に暴れて、遊んで、ギリギリのラインで人に迷惑をかけない。
これこそ「メジャー」で革命を起こす、ということです。多分。
このバランス感覚が、スチャダラパーとも通じる上手さだな、と感じました。
そして、その「上手さ」を裏付けるのは、
センスでもなんでもなくて、教養と強い意志、なんだと思います。
■入江悠の教養と強い意志
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えーいきなりですが、僕はファンキーモンキーベイビーズを筆頭に、
現在のJ-POPに溢れる「感謝(両親)」「応援(友達)」「思い出(卒業)」
というキーワードばかりの、「安易な青春のポエム化」が大嫌いです。
容易に想像できるハッピーエンドやハッピーストーリーは、
「そうだったらいいな〜」って話であって、現実ではほぼありえないはず。
憧れてもいいですし、想像してもいいでしょう。
ただ、努力も活動もなく「あたり前にある」と思ってしまう事が怖い。
クリスマスの日は頑張って早く帰る父さんも、
平日は酒を飲んで愚痴をはき、家族が面倒になる週末だってあるでしょう。
子供と夫を愛するお母さんも、昼ドラの浮気話にドキドキしたりするでしょう。
お金持ちのクラスメイトに憧れ、自分の家庭を恨む子供もいるでしょう。
いつしか、映画や音楽からこういったノイズ、
というか「遊び」の部分がなくなっていった気がします。
そして、こういう「遊び」をメジャー作品に入れ込める余裕が、
業界全体から減っているような気がします。
それは、ネット・SNSなどでユーザー側の発言が世間に届くようになったから?
もしくは、制作会社とか広告主からの発言が強くなったから?
そういう状況で、プロデューサーからのNGが増えたから?
原因は分かりませんが、最近は遊びのない、
分かりやすい優等生な作品が多く、当たり前の様に売れているようです。
作る方も、愛だ恋だ感謝だ歌った方が(作詞的には)すごく楽ですし、
「売れる」ことは、エンタメ業界では大正義ですから(ビジネスですから)、
メジャー作品はどんどんそっちに偏っていってる気がします。
じゃー、
そんなメジャー業界の中で「遊び」を入れたい場合どうするのか。
多分、広告主やプロデューサーに怒られないように、
もしくはバレないように入れ込む、のではないでしょうか。
ただし、何十日も撮影し、何百人ものスタッフが関わる
映画レベルの創作物の中で、作品の世界を壊さず、
さらには「メジャー」の要求にも応えつつ「遊び」を入れ込むためには、
どれほどの映画的教養と、強い意志が必要なのか、想像できません。
あの大量の血液とゲロ。
主演・日々沼の過剰なキャラクター性。
長回しの後ろで延々と続くピロートーク。
嵐の中のライブで空中に浮き上がるブッチ。
これらの「遊び」の裏側にある、
入江組の労力って、うーん、馬鹿げてるけど、カッコイイ。
そして馬鹿でカッコイイもの対し、
僕らは「好き」を超えた「愛おしさ」を感じるのであります。
■ダメ出し
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二階堂ふみが歌う「雨上がりの夜空へ」シーンへのダメ出しがありますが、
それはメルマガ読者限定の「ガチ話し」Podcastで語っているのでそちらをお聴き下さい。
この点は、音楽映画としてもったいない!
■まとめ
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長々とすみません。
最近の社会では、あらゆる活動と結果が数値化されます。
だから、エンタメやアートの世界にビジネスのノウハウが持ち込まれ、
全てが効率化に向かっていく結果、小さくまとまった作品が増えているのでは、
と感じます。
2週前にPodcastの企画で「中島貞夫映画祭」に行きましたが、
数値化や効率化されていない当時の映画と映画館には、
大博打の中からとんでもない物が生まれる「ワクワク感」があって、
でも同時に「なんじゃこりゃ!」っていう「大ハズレ感」もあって、
その両方を楽しめる空気があったんじゃないか、と羨ましく思います。
「遊び」がたくさん認められていた、映画業界。
入江悠が過去の日本映画を愛する所以は、
この「遊び」の部分なのではないでしょうか。
スチャダラパーが「今夜はブギー・バック」に、
「シェイク・イット・アップ」や「ミルク&ハニー」など、
70年代ディスコ・ヒット・タイトルを歌に入れ込んだ様に、
『日々ロック』の中にも、
古き良き日本映画からの引用が見られます。
日本映画の「遊び」の精神を、現代において、
メジャーという環境の中で継承する入江悠監督、身内ながら、凄いよ!
そして、映画館でこんなにも泣きながら笑い、笑いながら泣いたのは、
あの傑作『サニー 永遠の仲間たち』以来です!
というわけで、『日々ロック』は☆☆☆。
■余談
最後にスチャダラパー「ゲームボーイズ」からこのリリックも。
「ゲーム」と「映画」の違いはあれど、この精神を『日々ロック』からも感じます。
”ゲームボーイズからひと言 ゲーム業界についてちょっと
昔はよかったじゃないけども 売れたら アータ それでいいの?”
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以上。
ほとんど全て引用してしまいました。
我らP.O.Pがメジャーに行く時って、どうなるのでしょうか。頑張ります。
あ、あと。
2014/12/3(水)にP.O.Pの新作が出ます。
”冬空と歌声はきれいなほうがいい”
01. エンドレス・クリスマス feat. 岩崎太整
02. 初まりの日 feat. 中塚武
03. 路地のピアノ feat. さいとうりょうじ
04. The Last Train feat. 馬場智也
05. Watch me (YMCK 8bit REMIX)
[iTunes] [SoundCloudで試聴]